ビルメン業者の労務管理と人材育成の考え方、そしてありがちな勘違い

目次

人事労務管理は儲ける経営のためにあるということ

人事労務管理というと、「管理」だと最初から思い込んでいる人が多い。たしかに管理の技術ではあるのだが、それぞれの技術が単独で存在するわけではない。経営は広くて深いものです。この経営のしくみを知ることこそが、その企業に合った人事労務制度をつくり、運用していくための第一歩になるでしょう。
管理のための管理技術ではなく、経営、つまり業績を上げ、企業の成長・発展させるための技術であるべきです。決してきれいごとだけ言っていればいいわけではありません。

人事労務管理の要諦とは

人事労務管理の目的は、一言で言ってしまえば経営資源の中の「人材資源の有効な活用」でしょう。企業の最大の目標とは何でしょうか?「社会が必要とする役割を人の集団が力を合わせて果たすこと」では
ないでしょうか。そしてその目標が果たされているかどうかは、しかるべき収益を上げているか否かで証明されます。

収益は社員である「ひと」が上げます。昨今話題のAIや人工知能、機械や設備が独りで出すものでは決してありません。AIを使うのも結局は人です。「企業は人なり」と言います。企業活動に必要な資金を生むのは、配分するのは「ひと」であるという再認識が必要です。
企業にとっても、そこに働く人にとっても良いことは何か、どうすべきなのか?お互いに前向きな関心を持ち合って、そのことを考える土壌がほしい。その土壌があれば、顧客・社会に対する真摯な姿勢が育ち、「やる気」・「働きがい」が個々の社員にも醸成され、ひいては経営も安定、発展していきます。このことこそが、人事労務管理の要諦です。

ビルメンに多い、「人材育成」の思い込み

強い社員を育てたい。どこも同じ思いだが、思い込み、思いつきで強い社員は育たない。多くのビルメンに見られる典型的な3つの勘違いを上げてみる。

人材は教育によって育成できる

企業人材は教育訓練すれば期待される人材に育つものという考え方にも限界がある。よく人材の漢字を「人財」と書き換えている企業に多いかもしれない永遠の思い込みの一つ。一定の動作・作業手順はある程度の時間をかければ標準レベルまで引っ張り上げることが可能(人の適正によりかなり差はあっても)である。しかし、ものの考え方、行動傾向は、必ずしも教えてできるとは限らない。教育訓練で、経営者や上司が一定の動機づけや方向づけはできるが、その後本人がどう育つかは、本人次第である。

教育訓練によって企業人材は思うように変えられると思い込み、効果の上がらない教育訓練を繰り返している企業は案外多い。企業はできる人材・使える人材を使って成果を出すことが基本である。どのような人間もすべてオールマイティな人もいない代わりに、すべてができない人間もいない。適正を見分け、不適正な人材に的外れな期待をかけすきたり、無理を強いることは、企業のためにもその人材のためにもならないと割り切ることも必要だ。適材適所をしっかり意識して、マネジメントしていくことである。

「やる気」があれば成果は上がる

やる気の醸成は、とても重要です。だがやる気があれば何でもできる、と思い込んでいる経営者や管理者もまたとても多いです。やる気・根性・意欲があればということばかりが先走ると精神論に走っていきがちです。「なせば成る」という精神論を押し付けることで必要以上のストレスを与えてしまい、心身に問題を起こす社員も少なくないです。

また反対の見かけの「やる気」のある者に惑わされないことも必要です。元気がよい、機敏に動く、声が大きいなどの行動傾向があります。こういう社員は、上司や得意先に受けがいい。目立つことから、このような者が管理職やチームリーダー的に抜擢されることも多いようです。だがこのような人材は、見かけのやる気と業務遂行能力のバランスがとれているかどうかをきちんと見分ける必要があります。見かけの「やる気」はあるが基本能力がついていかないと暴走し、組織やチームを思わぬ方向にミスリードしてしまうことがあります。

人材の見分け方のチェックポイントとしては、やる気はあるが、以下の傾向があるときは要注意です。

・学習意欲に劣る
・思い込みが激しい
・言い訳が上手い
・責任転嫁が多い

教育は若年層から始める

社員教育は新入社員を初め、若年層の教育訓練から行おうとするところが多い、とくに小さな企業ほどその傾向があるようです。実際、若い者や中堅社員を鍛えてほしいという要望を受けることも多いです。
経営者や管理者は、自分たちはさておき、部下たちの教育訓練を重視しているようです。その気持ちはわかりますが順序が逆でしょう。
おそらく、教育訓練とは技能や知識を身につけさせようという狙いがあるのでしょう。しかし、若手クラスを重点にまともな教育訓練をすればするほど、現実とのギャップが出てきます。

「このように教わったが、うちの会社との現実とは違うじゃないか」という意識の芽生えです。そういう意識を持つことは、すべてダメというわけではないですが、そのままにしておくと不満が溜まってきます。理想と現実の違いに幻滅するというありがちな事態が起きます。

自社の体制や、上司としての管理職の適正が不十分な中で、下部組織の者を教育訓練することのリスクです。そのことからも教育訓練は上層部から行うというのが定石です。ましてや、一般社員教育を社外機関にまかせっぱなしにして、幹部層が同席さえしていない企業は社員の教育訓練の本質を理解していない典型です。

人事労務管理の最終目的とは

「人事労務管理の要諦とは」と重なるところもありますが、大事なことなので再確認です。社員がやる気を持って働ける職場環境づくりが人事労務管理の最終目的です。

「やる気」とは何か?

多くの管理職が、「やる気」と「動機づけ(モチベーション)」の違いについて、わかっていないように私には思えます。「やる気」とは、本人の気持ちに内在する自発性を前提にしたものです。
このやる気をある目的に向けて動かすように仕向けるのが「動機づけ」です。

両者は必ず、セットになっていなければいけません。企業において、やる気やモチベーションを高めるには上司や企業組織が、自発性を発揮できる刺激を与える存在でなければいけません。やる気は、外部からの圧力や強制によって引き出すものではありません。
部下や第三者が、何等かの具体的なアクションを起こさせる要因がないと、モチベーションは上がらないわけです。やる気だ、ガンバレ、根性だ・・・・などの言葉を連発するだけでは職場は停滞して、萎縮するだけです。

「ガンバレ」ではなく、「一緒にやってみよう」

現状より一歩高い目標にチャレンジし、自分が成長できるための無理ならば、それなりの部下はきちんとついてくる。同じ目標でも実行する人により、なぜ結果が違うのかを考えてみたい。気をつけなければならないのは、上司が強制して無理をさせることです。なぜそうするのかを部下に根気よくわからせる努力を怠ってはいけません。「ガンバレ」と言うだけでは、上から一方的に檄を飛ばすだけで無責任。上司は部下と共にあります。「一緒にやってみよう」。これが部下に投げかける言葉です。
もちろん、ほかにもいくつもやる気醸成の方法はあります。しかし、一番大切なのは数字ではなく、ハートです。

本当のやる気を構成する3つの要素

では、社員がどうしたら今以上にやる気を出して仕事に取り組んでくれるのか。社員にやる気を出して、働きがいを持って仕事に取り組んでもらうために、これだけは必要だという3つの基本要素がある。「信頼」、「誇り」、「連帯感」です。

「信頼」(この組織は自分にとってプラスになる)

これは、社員のやる気を継続させる最も重要な要素です。
この会社なら、この経営者なら、この上司なら、自分に対しておかしなことはしないだろう。信じてついて行けば間違いない・・・・そう思うことが「信頼」です。

オーナー経営者には、超ワンマンの人たちがかなりいます。ワンマン経営には批判もあります。しかし、そのような企業が案外世間から優良企業とされている場合も多い。ワンマン経営を積極的に称賛するつもりはないが、信頼性の高い経営者には、並みの人とは違う人間的魅力や迫力がある。オーラやカリスマ性といったものです。「あの社長の言うことはよくあたる」、「あの人の計画は必ず
実現する」・・・・など、実績から出てくる信頼感であり、畏敬の念です。オーラやカリスマ性は、ビジネス活動の実績によってこそ生まれるものです。

「誇り」(なんのために仕事をしているのか)

社員に働く喜びを持たせる工夫をすることが、経営層の重要な役割です。働くものが、単に生活の糧を稼ぐためだけに働いているとしたら、優秀なライバル、大企業には太刀打ちできません。
少しぐらい報酬は低くとも、この会社で認められ、あるいは業界でも一目置かれているのだ。といった誇りがあれば、社員はそこで働き続けます。活力ある企業は、経営者・管理者をはじめ、現場の者が自分のやっている仕事に誇りを持っています。
誇りとは、「働きがい」と理解していいでしょう。

しかし、自分の仕事に初めから誇りを持って取り組めるビジネスパーソンはまれでしょう。初めは偶然に就いた仕事でも、やっているうちに、この仕事はおもしろい、張り合いがある、というレベルに達していけば、誇り、働きがいに
つながってくる。「自分のやっている仕事が社会の役に立っている」、「働いている自分を家族が認めてくれている」、「自分のビジネス能力向上が感じられる」。そう思わせることが、経営者のとても重要な役割です。

「連帯感」(自分の存在が企業とどう繋がっているのか)

企業は、組織で動いています。
成果主義の傾向が強まり、ともすると組織より個人成果が重んじられる風潮もあります。しかし、働く者の多くは、組織の中で互いに機能し合い、助け合いながら頑張りたいと思っています。特に若年層にその傾向が見られ、仲間同士の目を意識します。もちろん、お互いになれ合いの、緊張感のない組織では困ります。しかし、自分は一人ではない、仲間がいる、という安心感は組織力を高める原動力ともなります。

最近、かつては不評だった社員旅行や、運動会などの組織としての集団行動を復活させている企業が増えています。これらは強制的な集団行動を嫌っていつの間にか衰退したイベントです。しかし、自発的な集団行動は若年層に受け入れられ始めているようです。若い社員達が企画した催しに、企業が協賛するという方式です。このような傾向を、社員のやる気づくりに結び付ける機会として捉えてもよいのではないでしょうか。

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このコラムの執筆者

清水聡希のアバター 清水聡希 ビルメンポスト管理人・ビルメンコンシェルジュチーフSG

「現場の代務経験ゼロ」「全管理物件黒字化達成」が自慢の現役ビルメンマン。ビルメンテナンス企業の収益改善・人材施策・事業承継・ビルオーナーの経営相談のコンサルティング・アドバイスを中心に最近では空き家相談・マンション管理相談も行っています。

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